プロジェクトの経緯:領域を超えた共同開発

ハルキゲニア・プロジェクトはL.E.D.(リーディング・エッジ・デザイン、代表山中俊治)とfuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター、所長古田貴之)、および株式会社クリエイティブボックス(代表澁江建男)の共同研究プロジェクトである。 L.E.D.の山中俊治はfuRoの古田貴之と、すでに科学技術振興機構北野共生システムプロジェクト(代表北野宏明)のヒューマノイドロボットmorph3を共同で研究してきた。小型で強力なモーターユニットの開発からスタートし、大きな可動範囲を持つ無駄のない美しい身体構造を作り上げ、アスリートロボットと言われるような運動性能を持つロボットを完成している。乗用車の新たな進化形を模索していた山中は、morph3を開発する過程で、従来の車と人間型ロボットとは基本設計コンセプトの根本的な違いに着目する。

乗用車は、たったひとつのエンジンの巨大なパワーを車輪に配分して動く。車輪の数は、車体を安定に移動するのに必要十分な数しか装備していない。一方、ロボットは多数のパワーユニットが協調動作することで、多彩な機動性を発揮する。パワーユニットの数は特定の作業を実現する最低限の数よりも多い。この冗長性と協調動作の概念を取り入れることで、従来にない高い機動性と知的行動の可能性を獲得した乗用車が実現できるのではないだろうか。山中は車の基本動作原理をゼロから見直し、車輪を備えた多数のロボットが床下に配置され、それらが分散協調して動作するという次世代乗用車:ハルキゲニアのコンセプト創造に到った。

山中は2002年春、「ハルキゲニア・プロジェクト」をクリエイティブボックス社に提案する。具現化のためのロボットテクノロジーの共同研究をfuRoの古田に依頼し、実験車両:Hallucigenia01の共同研究開発を開始した。

三者の役割は、以下の通り。まず、山中率いるL.E.D.はハルキゲニアのコンセプト発案、デザインおよび基本設計を行っている。古田率いるfuRoは機構、制御システムおよびソフトウェアの設計・開発を担当した。クリエイティブボックス社はプロジェクト全体を監修した。2003年になってから1/5スケールのプロトタイプ製作が本格化した。実施設計と製作には株式会社日南が参加している。そして11月、研究成果の第1段階として1/5スケールの実験試作車「Hallucigenia 01(ハルキゲニア・ゼロワン)」の発表に至る。